カーテンの隙間から射し込む光で、目を覚ましたわけじゃない。

私を起こしたのは、ビル・エヴァンス。

 

『いつか王子様が』

 

彼女の王子様になれなかった私には、なんとも皮肉な曲である──。

 

(『意識高い ジャズ』で検索したら、なんかビル・エヴァンスって出た。いつか王子様がって、ディズニー映画のアレしか…。)

 

 

 

意識高い系の朝

 

 

コーヒーを淹れるのは、少し面倒だ。だが、サイフォンで淹れたものしか口に合わないのだから、仕方がない。

コポコポという音が止まるのを待ちながら、新聞を開く。

 

(『意識高い コーヒー』で検索したら、サイフォンで淹れると全然違うって書いてあった。買ってないけど。)

 

元々は英語の勉強の為に読み始めた英字新聞だったが、いつの間にか、テレビでニュースを見る代わりになった。

 

(英字新聞は、よく見ると『Asahi Weekly(朝日新聞)』『Mainichi Weekly(毎日新聞)』だったりして、『The Japan Times ST』なんかは、タイトル的には玄人っぽいが、英語は一番簡単な、初級レベルのやつである)

 

今年はどこの国も暑くて、水が軒並み値上がりしているようだ。水を買う感覚は、日本にいてはわかりにくいだろうが、海外では当たり前である。

Amazonで買うか、コストコで買うか。つまり、配送を頼むのと、自分でEV車で足を運ぶの、どちらがCO2の排出量が少なく済むか、という話だ。

 

(意識高い系に言われてムカつく言葉第一位「海外では当たり前」)

(『意識高い系 話題』で検索すると、グローバル、環境問題、エコ、ロハス、とくる)

 

仕方ない。

買いに行くか、と立ち上がりかけて、コーヒーを淹れ終わっていた事に気づく。

確かに豆にはこだわったが、香りだけで満足して飲むのを忘れるなんて、我ながら滑稽だ。

 

(すぐ豆って言うが、そんなにこだわりたいなら、豆を植えればいいのにと思う)

 

誰が見るわけでもない苦笑いをしながら、カップに注ぎ、残りは製氷皿へ。

凍らせたコーヒーのキューブにホットミルクを注いで、溶かしながら飲むのにハマったのは最近だ。

だが、友人の勧めでインスタにあげてしまったのは、ちょっと失敗だった。おかげでスマフォが鳴り止まない。

 

(インスタにあげるのは、あくまでも知人の勧めで。別に何かをアピールしたいわけではない。普通にしてるだけなのに、なんかステキとか言われて、こちらも戸惑っている。というポーズ。)

 

キーを取って外に出ようとすると、ミックスの犬がまとわりついてきた。

今日はドッグランじゃないと、わからせてやらなきゃならない。

「シット……、ステイ」

少ししょんぼりして座る。お前のジャーキーも買ってくるから。そう言い聞かせて、ドアを閉めた。

 

(雑種はミックス、河川敷はドッグラン、指示は英語、にぼしはジャーキーに上位互換。テキトー。)

 

暑い。シャツ、いらなかったな。

自嘲気味に笑いながら脱ぐ。

(苦笑いとか自嘲とかとりあえず書いとくと、頑張ってないのにステキになっちゃう俺を演出できる不思議)

 

『GUNZE』

 

日本人たるもの、肌着はやっぱりグンゼだろ。オムツが取れた頃から世話になってる。ヘインズ? 何それおいしいの?

 

あ〜、暑いなクッソ、グンゼびちょびちょだしな〜〜、コストコ行こうと思ったけど、いいやホムセンで。着替えんのだるい。D2にしよ。イッヌの餌も、とりあえず愛犬元気でいいや。

 

あ、水買うんだっけ? なんで買おうと思ったんだっけ?

スーパーの汲み置きでいいじゃんな。あ、ボトル忘れたわ。いいや水道水で。水道水飲めるのは、日本とあとちょっとの国だけ。日本サイコー。塩素入りサイコー。

 

しかし暑いな…。水買わないなら、ホムセンもいいや。でも、アイスは買いに行こ。箱で。ガリガリ君、箱で。

 

今日何するんだっけ?

あ、意識高い系プレイだっけ?

そしたらアイス、ハーゲンダッツ?

検索しないとわかんねーわ。まあいいわ。テキトーにやっとこ。

 

『意識高い系 アイテム』検索ね。

 

一眼レフ……スマフォで。

 

革の手帳……スマフォで。

 

英字新聞…は、さっきやったな。グローバルな視点がいいなら、日本のニュースを英語で書いてるやつじゃなくて、ガチの現地新聞とか読めばいいのに。

 

スタバのタンブラー……持ってる(恥)

 

ドリッパー……あ、サイフォンじゃなくていいのか!

 

岩波文庫、または岩波新書? ラノベはダメなのか?

 

万年筆……、新聞屋がくれたボールペンでいいわ〜。

 

いろはす……水道水に、さっき決めた。

 

 

今気づいたが、私は意識低いらしい。

起きて、家を出るまでの間、意識高い風味にしただけで、かなり疲弊した。

 

意識高い人達は、頑張ってるんだね。

貫いて、高いもんバカスカ買って、経済を回してくれ! 

 

私だって、村上春樹作品の主人公みたいに暮らしたいよ?

でも、うまい棒とか食べちゃダメっぽいから、無理ですわ。いいわ。

 

あとは任せた!