2014年9月10日
中日春秋
 「テニスとは、絶対的な静寂と暴力的行為の、完璧な組み合わせである」。そんな定義をしたのは、テニスの四大大会シングルスで十二回も優勝した往年の女王、ビリー・ジーン・キングさんだ
▼嵐のような歓声と口笛。それがさぁーっと静まる。強烈なサーブが繰り出され、激しい打ち合いの音。息をのむ時間が続いた後で再びわき起こる歓声と拍手、あるいはため息…その果てしない繰り返し。なるほどテニスは、静と動の鮮やかな組み合わせだ
▼偉大なキングさんの名を冠したテニスセンターで繰り広げられた全米オープン。錦織圭選手は七試合で計十八時間二十分、戦い抜いた。日本人選手としてはこの大会で九十六年ぶりの四強入りを果たして、決勝進出で歴史を切り開いた
▼おとといの金メダルのような満月に、錦織選手の優勝を祈った人もいたかもしれない。残念ながら、日本人初の四大大会シングルス制覇こそは果たせなかった。しかし、「小よく大を制す」戦いぶりを称賛する声は、日本のみならず、欧米でもわき起こった
▼昨年のウィンブルドン選手権の覇者アンディ・マリー選手は、一昨年に英国人選手として七十四年ぶりにウィンブルドンの決勝に進みながら、惜敗した。その時、英紙はこう書いた
▼「彼は試合には負けたが、ついに国民の心を勝ち取った」。まったく同じ言葉を、錦織選手に贈りたい。