2014年9月6日
中日春秋
 ピッチャーが大きく振りかぶって投げるのは、贈答品の熨斗(のし)紙のようなものではないか。辛口のプロ野球評論で知られる豊田泰光さんが、そんな指摘をしていた
▼曰(いわ)く…大きく振りかぶる投手が減り、振りかぶらず小さな構えで投げるピッチャーばかりになった。確かに効率的かもしれぬが、それだけでいいのか。中身さえあれば熨斗紙など虚礼はいらぬと言う人もいるだろうが、美しさも大事だ。効率ばかり追っていて魅力は失せぬのか…(『豊田泰光108の遺言』)
▼豊田流に言えば、中日ドラゴンズの山本昌投手は、大きな熨斗紙を付けたピッチャーだ。一八六センチの体で大きく振りかぶって投げることにこだわり、プロ生活三十年。きのう四十九歳で勝利を飾り、プロ野球の最年長記録をつくった
▼山本さんは中学生の時、野球部の顧問に叱られ「校庭を走っておけ」と命じられた。やがて日は暮れ、みな帰ってしまったが、走り続けた。四時間も走ったろうか。見かねた職員から連絡を受けた顧問があわてて駆けつけてきた。急用で外出し「走れ」と言ったことを忘れ、帰宅してしまっていたのだ
▼山本さんは、この「やめない力」こそが、自分の最大の才能だという。最年長記録は「やめない天才」を飾る最高の熨斗紙だろう
▼さぁ五十歳のピッチャー山本昌、大きく振りかぶって…。そんな野球中継をぜひ聞きたい。