2014年8月19日
中日春秋
 ジャン、ザン、ヨナタマ…。沖縄の人々は昔から、ジュゴンをさまざまな名で呼んできた。漁師さんたちの間では、「アカングヮーイュー」とも呼ばれるそうだ。アカングヮーは赤ちゃんで、イューは魚という意味だという
▼同じ海の哺乳類でもイルカの乳首は下半身にあるが、ジュゴンの乳首は前ひれの付け根、人間で言えば脇の下にある。だから授乳をしている姿がちょうど、お母さんが赤ちゃんを抱いているようにも見える
▼そんなジュゴン母子の姿を見て、海の男たちも目を細めたのだろう。「赤ちゃん魚」という呼び名には、ともに海に生きる生命をいとおしむ心がにじむかのようだ
▼だが、アカングヮーイューという優しい言葉も死語になってしまうかもしれない。ジュゴンの数少ない生息域である沖縄県名護市の辺野古沖で政府はきのう、米軍用の滑走路建設に向けた海底掘削調査を始めた
▼埋め立てて造られるV字形の滑走路は、長さが一・八キロで水面からの高さは十メートル。滑走路というより巨大なコンクリートの箱が、コバルトの海に置かれるようなものだ。どう考えても辺野古の海は大きく損なわれるはずだが、政府は詳しい調査もせぬまま「ジュゴンへの影響は少ない」として着工した
▼ジュゴンの寿命は七十年ともいわれる。果たして今回の政府の判断は、七十年後の評価にも耐えられるようなものなのか。