2014年8月16日
中日春秋
<あなたがたのうちで罪のない者がまずこの女に石を投げなさい、との言葉に、太った無垢(むく)な青年が巨大な石を抱えてのっそりと前へ進みでた>
▼ダンサーで作家の飯田茂実さんの書いた「一文物語集」にあった。わずか一文の物語なので、引用した部分でおしまいなのだが、短い分、余計に恐ろしい
▼聖書ではキリストの「罪なき者だけ石を投げよ」の声に皆たじろぐのだが、この物語では自分こそ罪なき存在であると考えた「太った無垢な青年」が前へ進み出てくる
▼不気味である。自分には石を投げる権利があると手を挙げる身勝手さと思い上がった心。そのこと自体が「罪」であることに気づいてもいない。この物語の続きを考えるならば、神はまずこの男を罰したに違いない
▼東京都内のホームレスの四割が何者かに襲撃された経験があるという。石を投げる。自分とは異なる生活を送っているというだけで必死に生きる同じ人間を排除でもしたいのか。誰かをあなどり、傷つけても構わないと考える曲がった心に戦慄(せんりつ)する
▼石を投げる子ども、若者がいる。こうも考える。この子たちもある時は誰かに石を投げられる存在なのかもしれぬ。悲しいことだが、人は自分より弱い人間に向けて石を投げる。投石の連鎖に目をつぶり、子らをうまく導けないのなら、大人も社会も国もまた、「罪のない者」であるはずがない。
中日春秋
<あなたがたのうちで罪のない者がまずこの女に石を投げなさい、との言葉に、太った無垢(むく)な青年が巨大な石を抱えてのっそりと前へ進みでた>
▼ダンサーで作家の飯田茂実さんの書いた「一文物語集」にあった。わずか一文の物語なので、引用した部分でおしまいなのだが、短い分、余計に恐ろしい
▼聖書ではキリストの「罪なき者だけ石を投げよ」の声に皆たじろぐのだが、この物語では自分こそ罪なき存在であると考えた「太った無垢な青年」が前へ進み出てくる
▼不気味である。自分には石を投げる権利があると手を挙げる身勝手さと思い上がった心。そのこと自体が「罪」であることに気づいてもいない。この物語の続きを考えるならば、神はまずこの男を罰したに違いない
▼東京都内のホームレスの四割が何者かに襲撃された経験があるという。石を投げる。自分とは異なる生活を送っているというだけで必死に生きる同じ人間を排除でもしたいのか。誰かをあなどり、傷つけても構わないと考える曲がった心に戦慄(せんりつ)する
▼石を投げる子ども、若者がいる。こうも考える。この子たちもある時は誰かに石を投げられる存在なのかもしれぬ。悲しいことだが、人は自分より弱い人間に向けて石を投げる。投石の連鎖に目をつぶり、子らをうまく導けないのなら、大人も社会も国もまた、「罪のない者」であるはずがない。