中日春秋
2014年6月30日
 ドーリットルという英語姓はなぜか日本と因縁がある。悲しい歴史、楽しい話。いずれにもこの名が絡む
▼一九四二年、日本本土に初めて爆弾が投下された「ドーリットル空襲」。ジミー・ドーリットル米中佐が指揮した
▼時代は下がって、六四年に日本公開されヒットした、米映画「マイ・フェア・レディ」。オードリー・ヘプバーンの演じた、粗野な花売り娘は「イライザ・ドーリットル」。中佐も花売り娘もスペルは「DOOLITTLE」
▼もう一人はスペルの「O」が一つ足らぬが、日本の子どもに最も愛された「ドーリットル」さん。ドリトル先生。動物と話す獣医の物語。翻訳した作家井伏鱒二が親しみやすく、「ドリトル」とした
▼百年前の七月に開戦した第一次世界大戦。作者のロフティングは過酷な西部戦線にアイルランド将校として送られた。戦地から子どもに手紙を送りたいが、戦争のむごたらしさを書く気にはならなかった。動物も含めた生命の大切さ。それを思い、描いて郵送したのが、ドリトル先生の物語。あの楽しい話は戦場で生まれた。石井桃子さんの本にあった
▼戦争を知る者は平和を求め、戦争を知らぬ者は平和のありがたさを忘れてしまう。「平和を守るのは戦争よりもずっと骨が折れる」。「マイ・フェア・レディ」の原作『ピグマリオン』を書いたバーナード・ショーの言葉である。