中日春秋
2014年6月7日
 詩人・千家元麿(せんげもとまろ)に「小さい笑ひ」という短い詩がある。<赤ん坊の頬にくぼみが出来る/針でつゝいたより小さい笑ひが/一番遠い星よりももつと小さい笑ひが/浮んでは消える。/小さな喜びの火がともつては消えるやうだ。/誰か側からつゝいて笑はしてゐるやうだ>
▼確かに赤ん坊の頬にぽっと浮かぶ笑みには、自然の神秘を感じさせる何かがある。親になった者への大自然からの贈り物のようにすら思える。やがて親はまた別の笑いを、子どもから贈られるようになる。例えば六歳の子の詩…
▼<おとうさんがさんぱつをしてきたから/おかあさんが/「おとこまえになって」といったら/おとうさんはかがみをみていました/わたしは/「かおとちがうで。あたまやで」/といいました>(『子どもの詩集たいようのおなら』)
▼この少女が生きていたら、もう高校一年生。お父さんお母さんに、いろんな笑いを贈り続けていただろう
▼栃木県の小学一年生、吉田有希ちゃんが殺されて八年半。容疑者逮捕を受け、ご両親が公表した手記に、こうあった。<有希の思い出は七歳で止まったままです>。胸の中の有希ちゃんは、「行ってきます」と言って振り向き手を振った笑顔のまま。時は止まったままなのだろう
▼ご両親のこころの中の時計が、少しずつ、ほんの少しずつでも動き始めればと、願わずにはいられない。