中日春秋
2014年5月24日
 伝説的な戦場カメラマン、ロバート・キャパは一九四三年の秋、第二次大戦のイタリア戦線にいた。激戦の末、群衆の歓喜に迎えられつつたどり着いたナポリで彼は、学校の前にのびる列を目にする。それはドイツ軍への抵抗運動に身を挺(てい)し、命を落とした少年らの葬儀だった
▼校内には二十の棺(ひつぎ)が安置されていた。粗末な棺は小さすぎて、かわいい足がはみ出していた。かつてはファシストをたたえ万歳を叫んだであろう大人たちの歓迎の声より、その小さな足こそが自分を出迎えてくれたのだと、キャパには思えた
▼脱帽してカメラを取り出した彼は、最後の棺が運び出されるまで撮り続けた。名作『ちょっとピンぼけ』にキャパは書いている。「この飾り気のない小学校の葬式でうつした写真こそ、戦いの勝利の一番の真実を示すものであった」
▼眼前で苦しむ人がいるのに、自分は記録することしかできない。そんな葛藤を抱えながら、キャパは戦争の真実に肉薄しようとした。文豪スタインベックは彼の写真をこう評している。「一人の子供の顔の中に、あの民衆全体の恐怖を示した」
▼スペイン内戦からインドシナ戦争まで五つの戦争を追ったキャパは、ちょうど六十年前の五月二十五日、地雷を踏み四十歳で逝った
▼きょうもあすも、紛争やまぬ世界のどこかで、小さな遺体が粗末な棺に納められてしまうのだろうか。