中日春秋
2014年4月13日
 強い権限を持つ米大統領といえども、すべて思いのままになるわけではない。アイゼンハワー大統領は一本の松を切ることさえできなかった
▼米ジョージア州のオーガスタ・ナショナルGC。ゴルフのマスターズ・トーナメントが開催中である。十七番ホール(四百四十ヤード・パー4)の中間。フェアウエー上にその木はあった
▼アイゼンハワーはホワイトハウス内にグリーンを造成したほどのゴルフ好き。オーガスタの会員でもあったが、高さ二十メートルのこの松に、悩まされ続けた。一打目が松に当たってしまうのだ
▼「切ってしまおう」。腹を立てた大統領はこう提案した。もちろんクラブ側は拒否した。それが十七番ホールである。大統領でも勝手な主張は認められない。この二月の大雪の被害で、ついに切られてしまったが、長く「アイクの木」として愛され、名物になっていた
▼夜の通勤電車。真新しい背広の青年が口を開けて眠っている。四月入社の若者も疲れがたまる時期だろう。大変な仕事。厳しい上司。「アイクの木」だと考えるしかない。腹を立てても仕方がない。プレーを続けよう。未熟さをたくましさに変える木。攻略法もいずれ見つかるはずだ
▼「あの木にはよく当てたが、なくなって寂しい」。マスターズ優勝六回の帝王ジャック・ニクラウスは語った。苦労はやがて感謝と懐かしさに変わるものと信じる。