中日春秋
2014年2月7日
 ロシアの人々は、寒さを愛している。氷点下になるかならぬかくらいの冷え込みだと、「気分が悪い」と嘆きつつ、言う。「早くマローズが来ればいいのに」
▼マローズとは、厳寒のことだ。寒さを通り越して痛さを感じ、大気から一切の濁りが消えダイヤモンドダストが舞うような日、かの地の人々は実に喜々としている。ロシア版のサンタクロースはその名も「ジェド・マローズ」。直訳すれば「厳寒じいさん」。寒さは恵みなのだ
▼ただ、一九四一年のマローズは残酷だった。第二次世界大戦の独ソ戦が始まると、ドイツ軍はレニングラード(現サンクトペテルブルク)を包囲し、三百万都市を兵糧攻めにした。この年の寒波は例年にない厳しさだった
▼飢えた人々は、砂糖工場が爆撃されれば、焼け跡で氷をかき集めた。その氷にかすかな甘さがあると信じて。九百日にも及ぶ包囲戦で六十四万人の餓死者を含む八十万人の命が奪われたという。封鎖が解かれたのは、ちょうど七十年前の冬のことだった
▼きょうロシアで初の冬季五輪が開幕する。節目の年の平和の祭典は厳冬の中で犠牲となった人々への手向けともなろう。開催地ソチは、戦いの歴史が刻み込まれたカフカスにあり、テロの脅威などきな臭さは消しがたい
▼それでも、ソチのジェド・マローズは、世界中をあたためるようなドラマを届けてくれるはずだ。