中日春秋
2014年1月23日
 その駅には「ウソ」の駅名を記したプレートが出ている。本当の名前はJR北海道の根室線の幾寅(いくとら)駅なのだが「幌舞(ほろまい)駅」という表示プレートの方が目立っている。実在しない駅名を表示している本物の駅というのは世界でも珍しいのではないだろうか
▼種明かしをすれば「幌舞駅」とは浅田次郎さんの小説「鉄道員(ぽっぽや)」の主人公が駅長として勤務する小さな駅の名前で、高倉健さんの主演で一九九九年に映画化された際、「幌舞駅」に見立てて、撮影したのが幾寅駅である
▼撮影後も一部セットを残して映画の雰囲気を再現している。行ってみると分かる。寂れた駅の立て付けの悪い、引き戸を開けて不器用で仕事一筋の乙松さんがふと姿を現すような気がしてくる
▼鉄道員としての仕事に打ち込む男の物語である。どんな時も鉄道を安全に正確に運行することだけを考える。家族の不幸にさえがまんする。「ぽっぽやだから」
▼JR北海道のレール検査数値改ざん問題。保線部署のうち七割超の三十三部署で改ざんが確認された。改ざんとは、「ウソ」である。これが世界に冠たる「鉄道大国」の実態なのか。あまりに寂しい。くやしい
▼職員は「幌舞駅」のホームに立ち、「鉄道員」という虚構の世界をかみしめても損はないだろう。何か感じるはずだ。小説・映画の話だって? 現実の世界の「ウソ」よりはよほどましである。