中日春秋
2013年9月22日
 不思議なことに秋の彼岸になると、気付かないうちに緋色(ひいろ)の花弁を押し合うように静かに佇(たたず)んでいる。どこまでも律義な花である。<西国の畦曼珠沙華(あぜまんじゅしゃげ)曼珠沙華>森澄雄
▼花だけが先に出て花が落ちてから葉が出る。忽然(こつぜん)と出現した感じがして、暗がりで出会うと、どきりとさせられる。九月の残暑が厳しかった昨年は開花がかなり遅れたが、今年はいつもの年のように秋の澄んだ空気を連れて来た
▼小説家の竹西寛子さんには広島第一高女時代、国語の授業で曼珠沙華を詠んだ俳句ばかり五句も七句もつくってくる同級生がいた。彼女は一年ぐらい後に原爆によって殺された。竹西さんは曼珠沙華を見て彼女を思わぬ日はないという(『俳句によまれた花』)
▼どこかに異国めいた妖しさがあり、死人(しびと)花、幽霊花などの別名もあるこの花は万葉の時代に食用のために中国から持ち込まれた帰化植物とされる。水にさらして根っこの有毒な成分を取り去ると、粘り気のあるでんぷんが飢饉(ききん)の備えとなった
▼<対岸の火として眺む曼珠沙華>能村登四郎。群生するこの花の姿を川向こうから見れば炎のように映るのかもしれない
▼晩夏からリズミカルな声を聞かせていたツクツクボウシは消え、鳴く虫たちの美しいハーモニーが秋の夜を彩る。この連休は、天候が大きく崩れる心配はなさそうだ。少し足を延ばしてみませんか。