中日春秋
2013年9月19日
 熱するのはたやすいが、冷たく保つのは、難しい。カッカしやすい頭もそうだが、科学技術の歴史もまたそうらしい
▼熱することに関しては、人類には五十万年の火を使ってきた長い経験がある。金属を高温で溶かす技も六千年前には手に入れていた。だが、氷点下をぐっと下回る低温を操る技を手にし始めたのは、わずか二百年ほど前のことらしい
▼炭酸ガスを冷やしドライアイスにするのに成功したのは十九世紀半ば。ヘリウムガスを液体にするのはとりわけ難しく、一九〇八年にオランダのカメルリーン・オンネス博士が成し遂げた
▼博士は、ようやくたどり着いた零下二六〇度以下の世界で、とてつもない発見をする。水銀の電気抵抗が突然、ゼロになったのだ。人類が超電導現象を目にした最初の瞬間であった(伊達宗行著『極限の科学』講談社)
▼泉下のオンネス博士も、日本の鉄道技術者の挑戦には、目を細めるであろう。液体ヘリウムと超電導磁石を使うリニア中央新幹線が、二〇二七年に開業しようというのだ。きのうJR東海は路線の具体案を発表し、着工に向け一歩を踏み進めた
▼超電導の発見から一世紀、旧国鉄がリニアの開発を始めて半世紀。九兆円を投じてのリニア建設は、五十年先、百年先をにらんだ技術力の継承と発展をも狙ってのことという。リニアの先にも、ずっと線路は続くのだろう。