中日春秋
2013年9月15日
 <鋭きも鈍きも共に捨てがたし錐(きり)と槌(つち)とに使い分けなば>。蘭学者の高野長英や長州藩の大村益次郎も学んだ大分の私塾咸宜園(かんぎえん)を創設した江戸後期の儒者広瀬淡窓(たんそう)の言葉である
▼年齢や身分に関係なく、入塾後の成績で優劣を判断する徹底した実力主義で知られる。短所をあげつらうより、長所を見いだして人材を使い分けよ、という組織論は現代でも通用するはずだ
▼男性が一度はやってみたい仕事の一つとして、プロ野球の監督を挙げる人が多い。選手の個性を組織の中でどう生かすか、想像するだけでも楽しい。エースと四番だけでは勝ち続けられないが、彼のような投手が一人いたら監督は悠然と采配を振るえそうだ
▼プロ野球楽天の田中将大投手が開幕21連勝をマークし、同一シーズン最多連勝のプロ野球記録をつくった。「神様」「仏様」と列せられた元西鉄の稲尾和久さんの記録を五十六年ぶりに書き換えた
▼米大リーグの連勝記録を七十六年ぶりに塗り替える大記録でもある。こっそりとボールが飛ぶように変更され、投手受難のシーズンだけに、快記録は一層まばゆさを増す
▼「リリーフ陣を休ませたかった」と十三日、志願して九回まで投げ切った。自分だけの力では悲願の初優勝はつかめない。チームには錐も槌も必要とよく理解している賢い投手が、無敗の連勝記録をどこまで伸ばすのか楽しみだ。