中日春秋
2013年9月13日
 ♪あかいめだまの さそり ひろげた鷲(わし)の つばさ…オリオンは高く うたひ つゆとしもとを おとす…。宮沢賢治がつくった「星めぐりの歌」だ
▼神話では、サソリに刺されて死んだために、今でも夜空で「あかいめだま」のさそり座から逃げ続けているとされる狩人オリオン座。こん棒を高く振り上げた姿の、その右肩にある星が、ベテルギウスだ
▼この赤く輝く星は、死を迎えつつあるという。何しろ太陽の一千倍もの直径を持つ超大物だ。最期の時は、すさまじい爆発を起こす。サイエンスライター・野本陽代(はるよ)さんの『ベテルギウスの超新星爆発』(幻冬舎)によれば、その明るさは満月の百倍にもなって、たとえ昼間でも輝いて見える。神話の世界のような光景だろう
▼この星がある波長域では従来より二~三倍も大きく広がって見えることが、兵庫県立大学西はりま天文台での観測で分かったという。いよいよその時かと思ったが、専門家は「なぜこんな変化が起きているかは不明だが、爆発の前兆とは言えないだろう」と冷静だ
▼ベテルギウスは爆発が観測されてから三カ月ほど煌々(こうこう)と輝き続けてから少しずつ暗くなり、やがて肉眼では見えなくなるという。オリオンはたくましい肩を失って、冬の大三角の一角が消える
▼野本さんが言うように、まさに「見たいような見たくないような」天空の劇である。