中日春秋
2013年8月30日
 比喩というのは大げさなものだが、「バケツをひっくり返したような雨」というのは、どの程度の降雨量なのか
▼東京大学の木村龍治名誉教授の近著『天気ハカセになろう』(岩波書店)によると、四リットルのバケツの水を十秒かけて地面の一カ所に落としていくと、一秒間で一〇〇〇ミリの降雨量に相当するらしい。そんな豪雨はありえないが、では実際の集中豪雨は、どの程度か
▼昨夏の九州北部豪雨の時、熊本県阿蘇市では十時間の総雨量が五〇〇ミリだった。十キロ四方にそんな雨が降ったとすれば、東京ドーム大なら約四十杯、ナゴヤドーム大なら約三十杯ものバケツが、街の上でひっくり返された計算になるという
▼そういう強烈な雨が降りそうな時に出されるのが、「特別警報」だ。大雨だけでなく暴風や波浪などで「数十年に一度」のレベルになりそうな場合に気象庁が発表する。去年から使用している「経験したことのないような大雨」といった表現も使い、すぐに命を守る行動をとるよう呼び掛ける
▼経験は身を助けてくれるものではあるが、ドイツの小説家ジャン・パウルは二百年前<経験はよい薬であるが、病気が治った後でしか手に入らない>との警句を発している
▼特別警報体制が始まるきょう、本州付近には前線が延び、台風15号も近づいている。空に巨大なバケツが用意されたと思った方がよさそうだ。