中日春秋
2013年8月13日
 <散るということをしない花の性質に、私はひどく惹(ひ)かれていた。…ちょうどパラソルをくるくるとたたんでいくひとの仕種(しぐさ)に似ている。…白木蓮(はくもくれん)の行儀の悪さとは対照的だ>
▼エッセイストの坂口和子さんが行儀の良い花と讃(たた)えたのは木槿(むくげ)だ。街路樹にも多く植えられているので、この時季は見る機会が多い。確かに朝咲いて夕方にしぼんだ花を見ると、花弁を巻き込み、筆の穂先のようだ
▼<言に出(い)でて言はばゆゆしみ朝顔のほには咲き出ぬ恋もするかも>と万葉集で詠(うた)われた「朝顔」は、木槿や桔梗(ききょう)と混同されていたという説もある。和歌の時代から俳諧の時代になって木槿は盛んに詠まれるようになった
▼<秋あつき日を追うて咲く木槿かな>高井几董。七月には咲き始めて花期は長いが、立秋を過ぎた残暑のころ、暑さを追いかけるように次々と花を広げる木槿は秋の季語である
▼暦の上では立秋を過ぎた。そろそろ秋の気配を感じてみたい。そう切望しても残暑の日差しは容赦ない。高知県四万十市ではきのう、史上最高記録を更新する四一・〇度を観測した。十一日の東京の都心は最低気温が三〇度を下回らない史上初めての「超熱帯夜」だった
▼冷房の室外機の騒音にかき消されているのか、暑さで参っているのか、まだ虫の声が大きくは聞こえてこない。秋の虫が張り切って輪唱してくれる夜が待ち遠しい。