中日春秋
2013年8月10日
戦記とは…。<読者を司令官の気分にさせる書物。兵隊の気分になる読者はいない>。筒井康隆さんの『現代語裏辞典』(文芸春秋)による皮肉たっぷりの定義である
▼確かに勇ましい戦記を読んだり、戦争映画を見たりすれば、虫けらのように殺される人たちではなく、英雄的な司令官や武将に感情移入するものだ
▼きょう公開される『最愛の大地』は、女優アンジェリーナ・ジョリーさんが脚本を書いて、監督した初の長編映画だ。旧ユーゴスラビアで起きたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を描いた戦争ものだが、この作品を見て、「司令官の気分」になる人はまずいないだろう
▼ボスニアでは、隣人として生きてきた人々が、民族と宗教とを対立軸に殺し合う日々が三年半続き、二十万の命が失われた。それだけではない。女性への性の暴力が、敵対民族を侮辱し攻撃する「兵器」として使われた。五万人以上もの女性が犠牲になった、その現実を『最愛の大地』は直視している
▼映画で描かれるおぞましい場面の数々は、残念ながら過去の悲劇ではない。内戦が続くシリアでは十万人が殺され、小さな女の子までが性の暴力にさらされている。英紙によると、人質の女性らを裸にして並ばせ「人の盾」として使うようなことまでが、目撃されている
▼戦場とは、人間の心の闇の深さをまざまざと映し出す鏡なのだろう。
2013年8月10日
戦記とは…。<読者を司令官の気分にさせる書物。兵隊の気分になる読者はいない>。筒井康隆さんの『現代語裏辞典』(文芸春秋)による皮肉たっぷりの定義である
▼確かに勇ましい戦記を読んだり、戦争映画を見たりすれば、虫けらのように殺される人たちではなく、英雄的な司令官や武将に感情移入するものだ
▼きょう公開される『最愛の大地』は、女優アンジェリーナ・ジョリーさんが脚本を書いて、監督した初の長編映画だ。旧ユーゴスラビアで起きたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を描いた戦争ものだが、この作品を見て、「司令官の気分」になる人はまずいないだろう
▼ボスニアでは、隣人として生きてきた人々が、民族と宗教とを対立軸に殺し合う日々が三年半続き、二十万の命が失われた。それだけではない。女性への性の暴力が、敵対民族を侮辱し攻撃する「兵器」として使われた。五万人以上もの女性が犠牲になった、その現実を『最愛の大地』は直視している
▼映画で描かれるおぞましい場面の数々は、残念ながら過去の悲劇ではない。内戦が続くシリアでは十万人が殺され、小さな女の子までが性の暴力にさらされている。英紙によると、人質の女性らを裸にして並ばせ「人の盾」として使うようなことまでが、目撃されている
▼戦場とは、人間の心の闇の深さをまざまざと映し出す鏡なのだろう。