中日春秋
2013年7月26日
<掌に掬(すく)へば色なき水や夏の海>は、大正俳壇で活躍した原石鼎の句。手ではすくえぬ海の青さ。その蒼海(そうかい)の底、ひそかに大河が流れている。海洋深層流だ
▼海水は北極や南極付近で冷やされ、重くなって沈んでいく。それが一キロ以上もの厚さの巨大な水の層となり、一秒に一センチほどのゆったりした速さで海底近くを流れていく。水温は赤道付近を通る時でも零度近く。地球がこれほど過ごしやすい温度に保たれているのは、深層流がエアコンの役割を果たしているからだという
▼その旅は壮大だ。東京大学大気海洋研究所の羽角博康教授によると、北極付近で沈んだ水が大西洋を下り、南極付近で折り返して北極に戻るまで最長ルートで十万キロ。地球を二周半するほどの長旅で、三千年から四千年もかかるらしい
▼旅の発着点となる北極は海氷に覆われているが、今年はその面積が観測史上で最小になりそうだという。地球温暖化で今世紀後半の夏場には、氷がほぼ消滅するという予測もある
▼極地で海水を冷やす力が衰えれば、深層流も弱まる。人類は二酸化炭素を大量排出することで環境を変えてきた。「いったん海洋深層流に影響が出れば、いくら排出削減対策をとっても効果が出るのは何百年、何千年も先なのです」と羽角さんは言う
▼悠久の時を刻む海の大河。その流れを私たちは変えてしまっているのだろうか。
2013年7月26日
<掌に掬(すく)へば色なき水や夏の海>は、大正俳壇で活躍した原石鼎の句。手ではすくえぬ海の青さ。その蒼海(そうかい)の底、ひそかに大河が流れている。海洋深層流だ
▼海水は北極や南極付近で冷やされ、重くなって沈んでいく。それが一キロ以上もの厚さの巨大な水の層となり、一秒に一センチほどのゆったりした速さで海底近くを流れていく。水温は赤道付近を通る時でも零度近く。地球がこれほど過ごしやすい温度に保たれているのは、深層流がエアコンの役割を果たしているからだという
▼その旅は壮大だ。東京大学大気海洋研究所の羽角博康教授によると、北極付近で沈んだ水が大西洋を下り、南極付近で折り返して北極に戻るまで最長ルートで十万キロ。地球を二周半するほどの長旅で、三千年から四千年もかかるらしい
▼旅の発着点となる北極は海氷に覆われているが、今年はその面積が観測史上で最小になりそうだという。地球温暖化で今世紀後半の夏場には、氷がほぼ消滅するという予測もある
▼極地で海水を冷やす力が衰えれば、深層流も弱まる。人類は二酸化炭素を大量排出することで環境を変えてきた。「いったん海洋深層流に影響が出れば、いくら排出削減対策をとっても効果が出るのは何百年、何千年も先なのです」と羽角さんは言う
▼悠久の時を刻む海の大河。その流れを私たちは変えてしまっているのだろうか。