中日春秋
2013年7月16日
 骨董(こっとう)の世界では、初めから人をだますためにつくられた作品は偽物にも及ばない最下級の「嫌物(いやぶつ)」と呼ばれ、さげすまれるという。古美術鑑定家の中島誠之助さんがあるエッセーに書いている
▼「嫌物は、それをこしらえた人の化身であるために、そのもの自体に罪がある。それに対して偽物は、人の心が作り上げたもので、品物自体に罪はないといえる」
▼どこか「嫌物」のにおいがする。憲法九六条の先行改正論だ。衆参どちらかの三分の一の議員の反対で国民が判断できないのは問題、主権者が意思表示できる機会を増やそう-。自民党や日本維新の会の主張である
▼ならば、再稼働反対の世論が賛成を上回る原発の住民投票にどう対応したのか。原発稼働の是非を問う住民投票条例の制定を求める請求は大阪市、東京都、静岡、新潟県と続いたが、大阪市以外、自民党は相手にしなかった。橋下徹大阪市長、石原慎太郎前都知事も冷淡だった
▼九六条改正の世論は反対が多い。自分の意見を通したい時だけ国民投票を利用したいという身勝手さが見抜かれているからだろう
▼かつて自民党の指南役だった慶応大の小林節教授は「(首相は)『憲法を国民に取り戻す』と言うが、権力者が国民を利用しようとしている。改正でなく憲法の破壊だ」と批判している。「護憲的改憲派」を名乗る憲法学者の意見に同意する。