中日春秋
2013年7月10日
 日本で初めてのペスト患者が出た翌年の明治三十三年一月、当時の東京市は「ネズミ券」の配布を始めた。ペスト菌を媒介するネズミの死骸を一匹につき五銭で買い上げ、伝染病の広がりを未然に防ごうという狙いだ
▼区役所や警察署、近くの交番にネズミを届けると、引き換えに切符をくれた。これがネズミ券。現在の五十円ぐらいに相当するのだろうか。区役所や銀行で換金することができた
▼東京市の買い上げは十年ほどで打ち切られた。ネズミが減ってペスト対策が万全になったからではない。子を産ませて、商売しようという連中が出てきて、ネズミが増えすぎてしまったためだ(出久根達郎著『本を旅する』)
▼飼育して金に換えようと考える人間が出てくる。そんな想定をした役人はいなかったのではないか。よかれと考えた政策が思いもよらぬ反応を招き、逆効果になってしまうことは決して珍しくはない
▼山梨県甲州市で三九・一度を記録したのをはじめ、全国で猛暑だったきのう、参院選の候補者や政党幹部は暑さにも負けず政策を訴えた
▼アベノミクス、憲法、原発政策、TPP…。単純化された主張は有権者の耳になじみやすいが、想定外の要因が加われば、自信満々の公約もいつ骨抜きにされるか分からない。政党や候補者が訴えている政策の裏側にまで目を凝らしながら、大切な一票を投じたい。