中日春秋
2013年6月14日
 ADEは、まさに夢のような機械だ。「魔法の杖(つえ)」とすら呼ばれた。片手で楽に使える大きさなのに、爆弾だろうが違法薬物だろうが、危険な物なら何でも探知できる
▼しかも、値段は初期型で数十万円、最新型でも四百万円前後。テロ対策で高性能の探知機が求められる世界にあって、売れぬはずがない。英国の会社は三年ほどで七千台を売りさばいた。うち六千台は爆弾テロに苦しむイラクに輸出され、検問所の頼みの綱となった
▼が、すべてはペテンだった。ADEの正体は、千数百円で米国から仕入れた玩具。エックス線で調べれば、ろくな部品も入っていないと分かるシロモノだ。これで七十億円以上も荒稼ぎした英国人のマコーミック被告に先月、詐欺罪で禁錮十年の実刑判決が言い渡された
▼しかしなぜ、こんな商売がまかり通ったのか。イラクの高官は、億単位の賄賂を手にしたといわれる。だとすれば、詐欺と汚職のため、多くの命が危険にさらされたことになる
▼英国の哲学者ホッブズは「力と欺瞞(ぎまん)は戦争において主要な美徳だ」と指摘した。なるほど、戦争に詐欺の類(たぐい)はつきものだ。イラク戦争を正当化した「大量破壊兵器の保有疑惑」も結局は欺瞞だった。そう主張した某国の指導者は、裁かれもしていないが…
▼イラクでは今月に入って既に百八十人以上が、爆弾テロなどで死んでいったという。