中日春秋
2013年5月29日
 虹にも、雌雄があるのだという。日ごろ使う「虹」が、雄。雌の虹は「●」や「霓」と書き、音読みは「げい」。色の鮮やかなものが雄、色が暗いものが雌だ
▼確かに、明るい虹の外側にもう一筋、少し暗い虹が架かっているのが見えることがある。古代中国では、この二筋の虹を竜の雌雄に見立てた。俳人・津田清子さんにこんな句がある。<虹二重神も恋愛したまへり>
▼司会者で随筆家の楠田枝里子さんは、虹の性別を知った時、興奮して女友達に電話をかけたそうだ。「ねえねえ、知ってる? ニジには雄と雌があるのよ」。返ってきたのは、こんな言葉だった。「何いってるのよ。私なんか、ニジの母よ」(『日本の名随筆 雨』)
▼初夏を感じさせる好天続きから一転、雨の季節がやってきた。東海と近畿できのう、梅雨入りが発表された。出番を待ちかねたようにアジサイも咲き始めている
▼鬱陶(うっとう)しい季節だが、梅雨時の晴れ間こそはニジの母。楠田さんは、虹が消える瞬間を見ようと、懸命に目を凝らし続けるような少女だったという。消えた虹の行方を随筆に綴(つづ)っている
▼<どこか山のむこうには、虹の死骸が、沢山(たくさん)横たわっているかもしれません。そこは虹の墓場。象の墓場に象牙があふれているように。そこには巨(おお)きなパステルが、何本も山積みになって…>。虹の夫婦は、素敵(すてき)な夢想の親なのだろう。