中日春秋
2013年5月15日
 英国西部ブリストルに住むルイーズ・ブラウンさんは、今年で三十五歳になる。誕生日は一九七八年の七月二十五日。この日は、医学史に刻まれるべき記念日だ。ルイーズさんは、世界で初めて体外受精で生まれたのだ
▼当時の中日新聞を開くと、見出しが躍っている。<科学の勝利か 行き過ぎか 神の領域に挑戦>。ある産婦人科医のこんな意見が載っている。「子どもに対する冒涜(ぼうとく)だ。科学のもてあそびは恐ろしい…人類を、この地球を滅ぼす結果を生じないとも限らない」
▼だが今や、体外受精で生まれた子は四百万人以上。夫婦間だけでなく第三者からの卵子提供も広がっている。わが国でも、無償ボランティアで卵子を提供する女性と、不妊に苦しむ人をつなぐ民間団体の動きに期待が集まる
▼ただ、卵子の提供をめぐる法や制度がないのが、現状だ。不妊治療で海外から患者を集めるスペインに目を向ければ、経済危機が深刻になるにつれて、金銭目的で卵子を提供する女性が増えている
▼卵子の売買は違法だが、提供の際に肉体的負担への代償として一回十万円余が支払われるためだ。過度に提供を繰り返したために、ホルモン剤で健康な体を失った人までいるという
▼こうなってしまっては、それこそ「母性への冒涜」だ。希望を差し出す女性と受け取る女性。双方を守るための議論を進める時だろう。