中日春秋
2012年12月13日
 宇宙旅行の夢物語は、大量殺戮(さつりく)の悪夢の歴史と表裏一体だ。宇宙開発の父フォン・ブラウン博士こそは、弾道ミサイルの生みの親であった
▼博士はナチスの秘密警察に逮捕されたことがある。理由は「彼の関心は軍事用ロケットではなく宇宙旅行に向いている。彼はA-4をイギリス攻撃に使うことに反対した」だった。結局、A-4ロケットは殺人ミサイルV-2となって多くの命を奪った
▼米ソ間の宇宙開発競争を描く『月をめざした二人の科学者』の著者・的川泰宣さんは、戦後は米国で宇宙旅行の夢を実現させたフォン・ブラウンに疑問をぶつけた。なぜ殺戮兵器開発に携わったのか
▼博士は答えた。「私の宇宙への夢は、人道的な立場からロケットの研究を中止するには、あまりにも強かった。その頃の私は、宇宙旅行の実現に向かって大きく前進できるならば、悪魔に心を渡してもよいとさえ思っていたのです」
▼北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射を強行した。「人工衛星打ち上げのためのロケット」と称するが、米本土を狙えるミサイル開発ということは明白だ
▼原子力と宇宙開発を平和利用に限ってきた日本は、他の大国と違い、胸を張って「夢」を語る資格がある希有(けう)な国だ。が、それを軍事に使おうという動きもある。夢の力を信じるか、自ら悪夢の力に手を出すか。そんな問いを考える選挙でもある。