中日春秋
2012年11月7日
吉田幸代さん(57)が、子宮がんになったのは二十九歳の時だった。娘はまだ一歳五カ月。祈るような思いで受けた手術はうまくいき、幸い再発もなかった。そういう経験もあって、子どもたちに望むのは、ただ一つ。健康に育つことだった
▼その娘が、きょう国民栄誉賞を授与されるレスリング女子の吉田沙保里さん(30)だ。五輪と世界選手権で十三連覇という前人未到の偉業を成し遂げた。心も体も人一倍どころか、世界一強い娘さんになった
▼沙保里さんが小学四年生だったころの話を、幸代さんから聞いたことがある。大会で当たった相手は格下。マットに上がって試合開始を待つまでの間に、Vサインをした。「楽勝だよ」と言うかのように
▼優勝した娘を、父の栄勝さんは人目のつかぬ場所に連れて行った。こっぴどく叱りつけて、手まで出した。「あの時、私は見て見ないふりをしていました」と話す幸代さんの柔らかな笑顔は、包容力に満ちあふれていた。沙保里さんの真っすぐな強さは、お父さんの厳しさ、お母さんの優しさの結晶だ
▼今年の母の日、沙保里さんは電話をして、「いつも、ありがとう」と伝えたという。「何もしてないわ。産んだだけやで」と答えた幸代さんに、沙保里さんが言ったひと言がすてきだ。「産んでくれて、ありがとうやわ」
▼この言葉こそ、子が母に贈る最高の栄誉賞だろう。
2012年11月7日
吉田幸代さん(57)が、子宮がんになったのは二十九歳の時だった。娘はまだ一歳五カ月。祈るような思いで受けた手術はうまくいき、幸い再発もなかった。そういう経験もあって、子どもたちに望むのは、ただ一つ。健康に育つことだった
▼その娘が、きょう国民栄誉賞を授与されるレスリング女子の吉田沙保里さん(30)だ。五輪と世界選手権で十三連覇という前人未到の偉業を成し遂げた。心も体も人一倍どころか、世界一強い娘さんになった
▼沙保里さんが小学四年生だったころの話を、幸代さんから聞いたことがある。大会で当たった相手は格下。マットに上がって試合開始を待つまでの間に、Vサインをした。「楽勝だよ」と言うかのように
▼優勝した娘を、父の栄勝さんは人目のつかぬ場所に連れて行った。こっぴどく叱りつけて、手まで出した。「あの時、私は見て見ないふりをしていました」と話す幸代さんの柔らかな笑顔は、包容力に満ちあふれていた。沙保里さんの真っすぐな強さは、お父さんの厳しさ、お母さんの優しさの結晶だ
▼今年の母の日、沙保里さんは電話をして、「いつも、ありがとう」と伝えたという。「何もしてないわ。産んだだけやで」と答えた幸代さんに、沙保里さんが言ったひと言がすてきだ。「産んでくれて、ありがとうやわ」
▼この言葉こそ、子が母に贈る最高の栄誉賞だろう。