中日春秋
2012年10月5日
 レオナルド・ダビンチには、とんでもない弟子がいた。名はジャコモ。十歳で工房入りした少年のことを、巨匠は手記に書きとめた。<泥棒。嘘(うそ)つき。頑固。大食らい><二人前の晩飯を食い、四人前のいたずらをした>
▼とんだ小悪魔だが、ダビンチは終生、彼を従えて、相当の遺産まで与えた。巨匠はなぜ、こんな悪童を人生の友にしたのか。この謎を種に、米国の作家カニグズバーグは『ジョコンダ夫人の肖像』という名作童話を咲かせた。小悪魔こそ「モナリザ」誕生の鍵を握る。そんな物語だ
▼いや、このジャコモ自身が名画のモデルだという研究者もいる。とにかく謎が多いモナリザをめぐる疑問が、また増えた。英国に伝わった絵がダビンチ作「若き日のモナリザ」だとスイスの財団が発表した。あれは、あくまで模写だとの主張もあり、新たな論争の始まりだ
▼イタリアでは、モデルとして有力視される商人の妻ジョコンダ夫人の骨を発掘し、顔を復元する試みもある。死後五百年もたって掘り起こされるのだから、天国の夫人は微笑してばかりいられない
▼巨匠は死ぬまで、モナリザに手を加え続けたという。描くことは<自然のつくるものを超え、限りないものを追求する>ことだった。そんな無限の所業に駆り立てたのは、ひょっとして小悪魔の仕業なのか
▼あの美女には、やはり謎のベールが似合う。