中日春秋
2012年8月9日
 五輪で活躍する選手の父母はすごい目を持っていると思う。わが子の良さ、弱さ。見抜いて叱り、励ます。何より自分の生き様で教える
▼柔道女子57キロ級、松本薫選手の両親の言葉が印象に残った。小学生の時頭を下げ消極的な試合をした娘に、母の恵美子さんは「ゴキブリみたいな柔道ね」。ついに金メダリストになった娘に、父の賢二さんは「優勝の一瞬が終われば、いつもの私たちの娘」。子どもを抱き締める言葉だ
▼トランポリン男子個人四位、伊藤正樹選手の母、久美さんの「正樹のため生きたいと思った」という言葉は重かった。子育ての真っ最中に乳がんを発病。「五年間の生存率は25%と知った。幼い正樹のため25%に入ろうと必死にリハビリした」。その姿こそ最高のコーチだったろう
▼卓球男子の水谷隼選手が高校生の時祖父、鈴木暁二さんに言われたのは「応援してくれる人を大事にしなさい」。当たり前のひと言だ。でも、本当に強くなるには何が大切かを考えさせたに違いない
▼きょう、レスリング女子55キロ級の吉田沙保里選手が登場する。五輪三連覇を目指す女王も二十九歳。五月に十歳下の選手に敗れた。ただ、父の栄勝さんは言う。「体力は人にやらされていると落ちてくるが、好きでやっているうちは強くなれる」
▼父は信じているのだろう。うちの娘こそ世界一、レスリングが好きだと。