中日春秋
2012年7月26日
信心深いご隠居が、鰻(うなぎ)屋の前を通り掛かる。鰻が割(さ)かれそうになっているのを見て、止めに入る。「殺生はやめなさい」と買い取り、鰻を川に放してやる
▼次の日も通り掛かり、銭を出し鰻を助ける。それが日課のようになり、鰻屋は、労せずに儲(もう)かると大喜び。さすがに往生したご隠居は店を避けるようになったが、たまたま鰻を切らした日に、通り掛かる
▼商機逃すまじ、とあわてる余り鰻屋が赤ん坊をまな板の上に載せると、隠居もあわてて赤ん坊を取り上げ、店の前の川に、ざぶぅーん。落語『後生鰻』は何ともグロテスクな落ちで終わる
▼残念ながら新聞には、悲しい記事、痛ましい記事が多いが、滋賀発の記事に底知れぬ不気味さを覚えた。大津市の六十五歳の女性が、自殺した中学二年生をいじめたとされる同級生の母と間違われ、中傷され続けている。連日、嫌がらせの電話がかかる。「人殺し」「クズ人間」と呼ばれる。「顔に濃硫酸をかける」との手紙まで届いた
▼中傷している人々は、救いを求める声を上げていたのに生徒が自殺に追い込まれたことに、激しく憤っているのだろう。何か行動しないではいられない気持ちなのかもしれない
▼ご隠居は殺生を戒める余り、赤ん坊を川に放り込んでしまった。中傷者たちはいじめに怒る余り、自分の尊厳を放り出し、陰湿ないじめっ子になってしまった。
2012年7月26日
信心深いご隠居が、鰻(うなぎ)屋の前を通り掛かる。鰻が割(さ)かれそうになっているのを見て、止めに入る。「殺生はやめなさい」と買い取り、鰻を川に放してやる
▼次の日も通り掛かり、銭を出し鰻を助ける。それが日課のようになり、鰻屋は、労せずに儲(もう)かると大喜び。さすがに往生したご隠居は店を避けるようになったが、たまたま鰻を切らした日に、通り掛かる
▼商機逃すまじ、とあわてる余り鰻屋が赤ん坊をまな板の上に載せると、隠居もあわてて赤ん坊を取り上げ、店の前の川に、ざぶぅーん。落語『後生鰻』は何ともグロテスクな落ちで終わる
▼残念ながら新聞には、悲しい記事、痛ましい記事が多いが、滋賀発の記事に底知れぬ不気味さを覚えた。大津市の六十五歳の女性が、自殺した中学二年生をいじめたとされる同級生の母と間違われ、中傷され続けている。連日、嫌がらせの電話がかかる。「人殺し」「クズ人間」と呼ばれる。「顔に濃硫酸をかける」との手紙まで届いた
▼中傷している人々は、救いを求める声を上げていたのに生徒が自殺に追い込まれたことに、激しく憤っているのだろう。何か行動しないではいられない気持ちなのかもしれない
▼ご隠居は殺生を戒める余り、赤ん坊を川に放り込んでしまった。中傷者たちはいじめに怒る余り、自分の尊厳を放り出し、陰湿ないじめっ子になってしまった。