中日春秋
2012年6月21日
 『ドン・キホーテ』に、ある土地の統治者に任ぜられたサンチョ・パンサが「金を返さない」「いや返した」という老人二人の訴訟を裁く場面がある
▼借り手の老人は、誓いをする間、邪魔になるからと、竹の杖(つえ)を金を貸した方の老人に預け、十字架に手を置いて「返した」と誓う。神にまで誓うのならと貸し手も観念。借り手の老人は、杖を受け取って帰りかけるが、サンチョはペテンに気づく
▼老人が竹の杖の中に借りたのと同じだけの金を仕込んでいると見破ったのだ。それを貸し手の老人に手渡しておいて「返した」と誓ったのだから誓いにウソはない、というまやかしを暴いたのである
▼さて、これはまた大掛かりなまやかしだ。巨額の企業年金が消失した問題で、AIJ投資顧問の社長ら四人が、年金基金にウソの運用実績を示して金を出させ、だまし取ったとして詐欺の疑いで逮捕された
▼同社は資金運用に失敗し、新規契約で集めた資金を運用に回さず、払戻金に充てる自転車操業を繰り返していたらしい。集めた資金の大半は消え、客に戻るのはほんの一部というからひどい話である
▼あの社長、国会で「最初からだますつもりはなかった」と“誓った”はずだが、杖の老人よろしく、こう言う気かもしれない。「『最初から』とは言ったが、以後もなかったとは言ってない。だから誓いにウソはない」…。