中日春秋
2012年6月20日
<若ければ道行(みちゆき)知らじ幣(まひ)はせむ黄泉(したへ)の使ひ負ひて通らせ>。万葉歌人、山上憶良は、古日という子を亡くした時、そう詠んだ
▼幼いゆえ冥土への道を知らないと、その段になってなお案じずにはおられぬ親の心だ。黄泉路(よみじ)の使いよ、贈り物をするからおぶってやってくれ…。断ち切れぬ亡き子への思いに、憶良の慟哭(どうこく)が聞こえる
▼先日、一人の男の子が六歳未満としては国内で初めて脳死と判定された。両親のコメントの一節に胸が詰まった。<このようなことを成しとげる息子を誇りに思っています>。実際、その通りのことを彼はした。臓器の移植で何人もの人が救われた
▼だが、かわいい盛りの子だ。まだ心臓は鼓動し体も温かい。両親は迷いに迷っただろう。最後には決断したが、それは子への思いを断ち切ったのではない。むしろ逆に思いをつなぐための選択だったのではないか
▼コメントにある。<息子が誰かのからだの一部となって、長く生きてくれる…>。俳優の故緒形拳さんが遺(のこ)した言葉が、重なる。<死ぬということは残った人の中に生きるということだ>
▼無論、同様なケースでも、親が決断を強いられるようなことはあってはならない。でも、この男の子が<成しとげた>ことについては思うのだ。体の一部を受け継いだ人だけでなく、底いなき哀(かな)しみに沈む両親さえも救ったのではなかったか、と。
2012年6月20日
<若ければ道行(みちゆき)知らじ幣(まひ)はせむ黄泉(したへ)の使ひ負ひて通らせ>。万葉歌人、山上憶良は、古日という子を亡くした時、そう詠んだ
▼幼いゆえ冥土への道を知らないと、その段になってなお案じずにはおられぬ親の心だ。黄泉路(よみじ)の使いよ、贈り物をするからおぶってやってくれ…。断ち切れぬ亡き子への思いに、憶良の慟哭(どうこく)が聞こえる
▼先日、一人の男の子が六歳未満としては国内で初めて脳死と判定された。両親のコメントの一節に胸が詰まった。<このようなことを成しとげる息子を誇りに思っています>。実際、その通りのことを彼はした。臓器の移植で何人もの人が救われた
▼だが、かわいい盛りの子だ。まだ心臓は鼓動し体も温かい。両親は迷いに迷っただろう。最後には決断したが、それは子への思いを断ち切ったのではない。むしろ逆に思いをつなぐための選択だったのではないか
▼コメントにある。<息子が誰かのからだの一部となって、長く生きてくれる…>。俳優の故緒形拳さんが遺(のこ)した言葉が、重なる。<死ぬということは残った人の中に生きるということだ>
▼無論、同様なケースでも、親が決断を強いられるようなことはあってはならない。でも、この男の子が<成しとげた>ことについては思うのだ。体の一部を受け継いだ人だけでなく、底いなき哀(かな)しみに沈む両親さえも救ったのではなかったか、と。