中日春秋
2012年4月5日
少し前、やや山間(やまあい)とはいえ、渓流より里川という方が似合いそうな、こぢんまりとした川に釣りに出掛けた
▼西洋式の毛針釣りを愛好しているのだが、下手に竿(さお)を振り回すので、川べりの木に毛針が引っ掛かるトラブルが頻発。それは毎度のことだが、そこでは「ああ、またやった…」と嘆息しつつ振り返ると、ある時は白梅、ある時はネコヤナギだったりした
▼折角(せっかく)の花を散らさぬよう丁寧に毛針を外した。幸い、川には慈悲深い魚もいて、時折、流れを割って、カゲロウを模した不出来な毛針に食いついてくれた。今季の解禁後、初めて拝んだアマゴの顔。春が来た、と思えた
▼聞けば、北関東の少なくない川が釣りの解禁延期を余儀なくされているという。三月から四月一日にかけて予定されていた解禁前に調べたところ、食品の新基準値を超える放射性セシウムがヤマメなどから検出されたため、栃木県や群馬県が該当の漁協に自粛要請した
▼原発事故の罪過全体から見れば小事だろう。だが、関係業者には死活問題。何より、地元の釣り人たちの落胆を思えば胸が痛む。魚と会えぬまま待ちわびていた春が過ぎて行く…。芭蕉(ばしょう)は<行く春や鳥啼(な)き魚の目は泪(なみだ)>と春を惜しんだけれど、今、釣り人たちの目も濡(ぬ)れていよう
▼釣りは一例にすぎない。どれほどの「ささやかな幸福」が汚(けが)されたか。怒りがまた新たになる。
2012年4月5日
少し前、やや山間(やまあい)とはいえ、渓流より里川という方が似合いそうな、こぢんまりとした川に釣りに出掛けた
▼西洋式の毛針釣りを愛好しているのだが、下手に竿(さお)を振り回すので、川べりの木に毛針が引っ掛かるトラブルが頻発。それは毎度のことだが、そこでは「ああ、またやった…」と嘆息しつつ振り返ると、ある時は白梅、ある時はネコヤナギだったりした
▼折角(せっかく)の花を散らさぬよう丁寧に毛針を外した。幸い、川には慈悲深い魚もいて、時折、流れを割って、カゲロウを模した不出来な毛針に食いついてくれた。今季の解禁後、初めて拝んだアマゴの顔。春が来た、と思えた
▼聞けば、北関東の少なくない川が釣りの解禁延期を余儀なくされているという。三月から四月一日にかけて予定されていた解禁前に調べたところ、食品の新基準値を超える放射性セシウムがヤマメなどから検出されたため、栃木県や群馬県が該当の漁協に自粛要請した
▼原発事故の罪過全体から見れば小事だろう。だが、関係業者には死活問題。何より、地元の釣り人たちの落胆を思えば胸が痛む。魚と会えぬまま待ちわびていた春が過ぎて行く…。芭蕉(ばしょう)は<行く春や鳥啼(な)き魚の目は泪(なみだ)>と春を惜しんだけれど、今、釣り人たちの目も濡(ぬ)れていよう
▼釣りは一例にすぎない。どれほどの「ささやかな幸福」が汚(けが)されたか。怒りがまた新たになる。