中日春秋
2012年2月23日
 意表を突く機転や、おどけた行動などで、既成の秩序や価値観を動揺させるいたずら者。世界各地の神話や民話に登場する、そうした存在類型は「トリックスター」と呼ばれる
▼折々、サプライズを見せてくれる河村たかし名古屋市長にも少しその気(け)があるかもしれない。ただ今度は「南京大虐殺はなかった」と発言し、同市の友好都市である中国・南京市が反発、交流停止を宣言する騒動になっている
▼日中戦争中に起きたこの事件については、安倍首相時代、両国首脳の肝いりで始まった「日中歴史共同研究」の報告書でも、犠牲者数こそ双方主張の両論併記となったが、「あった」ことでは一致しているのだから、市長発言は不可解である
▼市長は「日中間で討論会を」というが、こんなやり方が何かを創造するとは思えない。相手におもねるのでも、いがみ合うのでもなく、学者の冷静な議論に委ねることで歴史問題に対処しようとする両国の努力への冷や水でしかあるまい
▼思えば「まさか」や「あえて」で人を驚かすのは河村さんの得手。今回も、まさか友好都市の首長が、あえて、遠路、外(と)つ国から来た訪問団に向かってそんなことを言うとは…というパターンなのは確か
▼トリックスターとは、混乱をもたらした後で、しばしば新秩序を創造する存在だとか。それがなければ? 無論、ただの人騒がせである。