中日春秋
2012年2月7日
 男性の間でも折々、その時代の「時の人」をまねた髪形が流行することがある
▼代表例はやはり、石原慎太郎都知事が、若かりし日、『太陽の季節』で芥川賞を受けた後に流行(はや)った「慎太郎刈り」か。ミーハーな気分といえばそれまでだが、まねる人物に対する、ある種の好意の表れであるのは間違いあるまい
▼「ドクトル・バッシャールと同じ髪形にしてくれ」。最近、若い客からちょくちょくそう注文されるのだと、ダマスカスの老舗理髪店のおやじさんがうれしそうに話していたのを今も覚えている。バッシャールとは、元は眼科医だったシリア大統領アサド氏のこと。その座について一年足らずのころだから、十一年前になる
▼形式的な信任投票で亡父のポストを“相続”したが、国民の間では、開明派と目された若き大統領への変革の期待は、かほどに大きかった。それがどうだ。民主化を求める民衆へのこれでもかという苛烈な弾圧。国際社会は批判を強めるが、弾圧停止を求めた国連安保理決議は、中ロの拒否権発動で否決されてしまった
▼どんな思惑か知らぬが、反体制派が映画『007』シリーズの原題を引いて放った恐ろしい警告を両国はどう聞くのか。「政権に“殺しのライセンス”を与える行為だ」
▼むごいことに、その銃口の向かう先には、あのころ“バッシャール刈り”にした若者たちもいる…。