中日春秋
2011年11月21日
 三点差、九回裏2死、走者なし。そこまでくれば、野球記者は「Aチームが三点差で押し切る」と書く
▼だが、そこから同点、逆転サヨナラといったことも起こる。締め切りは間近で、端(はな)から書き直す時間はない。そんな時、記者は「Aチームが三点差で押し切る。」と書いた後へ「と、思いきや」と続けるのが定石らしいと、作家の永井龍男さんが、かなり古い随筆に書いている
▼現今は、さすがにその手の表現、あまり見かけぬが、締め切り間近、土壇場で思わぬ展開となれば、記者が焦るのは今も同じ。また、それがなくては野球がつまらない。考えてみれば「と、思いきや」とは筋書きのないドラマの象徴のような言葉である
▼今年の日本シリーズは、ドラゴンズが敵地で連勝、この勢いのままいく「と、思いきや」、地元で三連敗。これはホークスで決まり「と、思いきや」、再びドラゴンズが敵地で一勝。だが、昨日、運命の第七戦は落として惜しくも日本一は逃した
▼赫々(かっかく)たる成績を残して今季で球団を去る落合監督だ。最高の花道とはいかなかったが、完全試合で日本一を決めると思われた山井投手を九回、敢然と交代させた四年前のシリーズは忘れぬ。この人ほど采配で「と、思いきや」をやってくれた監督もなかった
▼長かった野球シーズンもついに幕。来季はどんな「と、思いきや」に出合えるだろう。