中日春秋
2011年10月27日
 二十七日から始まる「読書週間」に事寄せるわけではないけれど、ふっと自分の読書体験を顧みてみたのは、作家北杜夫さんの訃報に接したからである
▼記憶はおぼろげだが、確か、中学生の時分、兄に勧められて『どくとるマンボウ航海記』を最初に読んだ。続いて、抱腹絶倒の『怪盗ジバコ』など読み、完全に北さんのユーモアの虜(とりこ)になった
▼やがて、北さんのよりまじめな小説、例えば『白きたおやかな峰』や大長編『楡家(にれけ)の人びと』などに手を伸ばした。さらに背伸びして、北さんの敬愛する作家トーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』にも挑んだっけ。その辺から、どんどん読むものの幅が広がった
▼思えば、抄訳版の『世界名作全集』といった「子供向け」から「大人」の読書世界へと橋渡しをしてくれたのが、北さんだったのかもしれぬ。それがスムーズに行ったのは、いきなり、しかつめらしい“ブンガク”でなく、北さんのユーモアが入り口になってくれたからだと思う
▼中国故事によれば、天に召された文人墨客の昇るところ、<白玉楼>とかいう。ファンの喪失感などお構いなしに、少し先に行った遠藤周作さん、辻邦生さん、井上ひさしさんらが楼中で、賑(にぎ)やかに、北さんを迎えていることだろう
▼さて、今夜は何を読もうか。窓外に目やれば、日はとっぷりと暮れ、既に、秋の夜長の真中(まなか)である。