中日春秋
2011年9月6日
 例えば、川に釣りに行き、早く釣果を上げようとすれば、まずは過去にいい目をしたポイントに入る
▼ことほど左様に、人が何かの判断をする時、大きな手掛かりとするのが経験だ。片っ端から、でなく経験則などからおよその当たりをつける。心理学でいう「ヒューリスティックス」は、日常生活でも大いに活用されている
▼さて、激しい雨を猫と犬、<キャッツ・アンド・ドッグス>という英語の表現があり、ラテン語の<cata doxas>に由来するとの説があるとは以前にも書いた。その意味は「経験に反する」である
▼多数の死者・行方不明者を出すなど和歌山、奈良、そして三重県を中心に激烈な被害をもたらした台風12号による豪雨災害。三重県紀宝町の輪中に囲まれた地区のある住民は、二日夜の避難勧告に「しょっちゅうあることで、避難はしない」と語ったという
▼紀伊半島南部は日本有数の多雨地帯で台風被害も多い。それに耐えてきた経験に基づく判断だったかと思う。だが、氾濫した川は高さ九メートル以上もある輪中堤を超えた。そんな、行政や住民の「経験に反する」ことが至るところで起きたということだろう
▼「濁流猛威、集落のむ」といった新聞の見出しもしかり、重ねてしまうのはやはり、あの大津波のこと。経験は役立つが、逆に判断を縛ることもある。あらためてその怖さを思う。