中日春秋
2011年9月5日
 山間部を車で走っていると、道路に野生動物が飛び出してきて、肝を冷やすことがある
▼悪くすれば、事故にもつながりかねず、運転者は迷惑千万と考えるが、動物の側からすれば、本来自分たちの「通り道」だったところに勝手に道路をつくったのは人間の方だということになろう
▼紀伊半島などに記録的な雨を降らせた台風12号。家ごと流されるなどして多数の死者も出ている。痛ましい被害に言葉もないが、気象庁の経路図を見れば、はるか南のマリアナ諸島付近から、まるで日本に狙いを定めて北上してきたように見える
▼だが、実際は特に珍しいコースではない。台風の側からすればやはり、台風の「通り道」に日本人が住み着いただけということになろうか。加えて地震や火山も多い日本だ。だからって国ごと引っ越しもできないのだから、自然災害はわが国の宿命だといわざるを得ない
▼<自然に勝るパワーはない>と言ったのは、ジャマイカの伝説的歌手ボブ・マーリーだが、日本人ほどそれを肌身に知る国民はあるまい。その畏敬の感覚こそ、日本の「らしさ」を育てた面もある気がする。力ではね返す「剛」でなく、しなやかに受け止める「柔」の強さとでもいえばいいか
▼これからも災害はやって来よう。しなっても折れない木のような強靱(きょうじん)さを磨いていきたい。大震災を経た今、なおさらそう思う。