中日春秋
2011年6月9日
 その人が「うちの子どもたちが…」と話し始めたので、インタビューをしていた記者は、当然、ご本人の家族のことだと思った
▼しかし、しばらく聞いていて、気づく。それは、研究対象であるアフリカのチンパンジーたちのことだった。昨日、悲報が伝えられた日本モンキーセンター(愛知県犬山市)所長、西田利貞さんの話である
▼一九六五年から四十年以上もタンザニアでの野外調査を続けた野生チンパンジー研究の世界的権威。雄が集団に居残る父系社会であることなどを世界で初めて解明し、三年前には「人類学のノーベル賞」といわれるリーキー賞を日本人で初受賞。昨年は中日文化賞も受賞されている
▼初めてタンザニアに赴いたころは、別の対象の調査に「三年ほどで転進しようと思っていた」そうだ。だが、チンパンジーに魅せられ「今はもう、生涯チンプの研究を続けて悔いはないと思っている」と、八一年刊の著書『野生チンパンジー観察記』にある。そして、その通りの生涯を送られた
▼冒頭に紹介したインタビューで、西田さんは、こんなことを言っている。「ヒトの進化のスピードは少し速すぎたのではないか。人間は自然界全体からみれば、少々、存在自体が肥大化しすぎているかもしれません」
▼「科学文明の暴走」にも見える、あの原発事故を経験した今、一層重く響いてくる言葉である。