中日春秋
2011年3月8日
何かの事故で瀕死(ひんし)の状態になり、ストレッチャーで病院内を運ばれていく子ども。それに追いすがる父親が突然、廊下に跪(ひざまず)き、泣きながら天に叫ぶ。「神様、どうかこの子を取り上げないでください」
▼うろ覚えだが、ずいぶん前、NHKで見た米ドラマ『ER 緊急救命室』の一場面。本筋でなくERの日常を描くシーンにすぎなかったと思う。だが、同じ人の子の親、そう祈るよりない父親の切なさがしみて涙腺がゆるんだ
▼親にとって、子を失うことを超える哀(かな)しみなどない。小林一茶は遅くに結婚し、四人の子を得るが次々、夭折(ようせつ)してしまう。長女さとを、一歳少しで亡くした時の痛切な句はよく知られている。<露の世は露の世ながらさりながら>
▼病や事故なら、あきらめがつくなどとは無論、言えない。それでも、これは酷(ひど)すぎる。親子一緒に出掛けた熊本市のスーパーのトイレで、三歳の女の子、心(ここ)ちゃんが見知らぬ男に殺され、遺棄された事件
▼逮捕された大学生の男が犯行を自供したという。神でなく人に不条理に<取り上げられた>幼い命。ご両親に<露の世>を呪う慰みすらないのがむごい
▼<子をもちて二十三年わが得たる慰藉(いしゃ)限りなし与ふるは無く>田谷鋭。男は、ご両親が、心ちゃんから何十年と得られるはずだった慰藉をも<取り上げた>のだ。通り一遍の“動機”など、聞きたくもない。
2011年3月8日
何かの事故で瀕死(ひんし)の状態になり、ストレッチャーで病院内を運ばれていく子ども。それに追いすがる父親が突然、廊下に跪(ひざまず)き、泣きながら天に叫ぶ。「神様、どうかこの子を取り上げないでください」
▼うろ覚えだが、ずいぶん前、NHKで見た米ドラマ『ER 緊急救命室』の一場面。本筋でなくERの日常を描くシーンにすぎなかったと思う。だが、同じ人の子の親、そう祈るよりない父親の切なさがしみて涙腺がゆるんだ
▼親にとって、子を失うことを超える哀(かな)しみなどない。小林一茶は遅くに結婚し、四人の子を得るが次々、夭折(ようせつ)してしまう。長女さとを、一歳少しで亡くした時の痛切な句はよく知られている。<露の世は露の世ながらさりながら>
▼病や事故なら、あきらめがつくなどとは無論、言えない。それでも、これは酷(ひど)すぎる。親子一緒に出掛けた熊本市のスーパーのトイレで、三歳の女の子、心(ここ)ちゃんが見知らぬ男に殺され、遺棄された事件
▼逮捕された大学生の男が犯行を自供したという。神でなく人に不条理に<取り上げられた>幼い命。ご両親に<露の世>を呪う慰みすらないのがむごい
▼<子をもちて二十三年わが得たる慰藉(いしゃ)限りなし与ふるは無く>田谷鋭。男は、ご両親が、心ちゃんから何十年と得られるはずだった慰藉をも<取り上げた>のだ。通り一遍の“動機”など、聞きたくもない。