中日春秋
2010年6月23日
 今年もアリが目につく季節になった。<アリの列金のない日におもしろい>とは以前、立川談志さんが紹介していた古い川柳
▼<どれもこれも3に似ている>というルナール『博物誌』の有名な表現を借りれば<333333333333…>。旧約聖書が「なまけ者はアリを見習え」と言わず、イソップがキリギリスと対比などせずとも、3が列なしてせっせとエサなど運ぶ健気(けなげ)な姿を見れば「勤勉」のイメージは自然とわく
▼かつて日本人はよくアリにたとえられた。勤勉を通り越し働くしか能がないのニュアンスさえあったろう。実際、ワーカホリック(仕事中毒)の外来語も定着し、逆にカローシ(過労死)は、そのまま英語になった。「働き過ぎ」への反省は長らくわが国の大きな課題だった
▼昨日、マツダの元期間従業員の男が広島県の工場内を車で暴走、十一人をはね、一人を死亡させる事件が起きた。男は「クビにされた恨み」と言い、会社は「自分から退職した」と食い違うが、どのみち、こんな蛮行に正当な理由のあるはずがない
▼ただ近年、働くことをめぐる問題の中心がいわば「働き過ぎ」と正反対の「仕事がなさ過ぎる」点にあることは確かだ。そして、それが過去にも暴発と呼ぶしかない事件の土壌になっていることも
▼気がつけば、日本が「仕事中毒」を気に病んだ時代は、もう遥(はる)かである。