中日春秋
2010年4月15日
早朝のまだ暗い、彼(か)は誰(たれ)時。起き出した豆腐屋が、表に出しておいた商売物の雪花菜(きらず)、つまり、おからを、むしゃむしゃ食べている黒い影に気づく
▼犬だと思い、追い払おうと薪を投げつけると、それが当たって影はばったり。見れば、こときれていたのは犬ではなく鹿(しか)。そこは、鹿を神鹿(しんろく)として大事にしている奈良、誤って殺しても死罪になる土地だ。豆腐屋はお縄となり、奉行所へと引っ立てられる…
▼落語『鹿政談』の話。舞台も、鹿を殺(あや)めた者が縛につくのも同じだけれど、こちらはまったく同情できない。奈良公園の鹿が洋弓銃(ボーガン)で射殺(いころ)された事件で、三重県の飲食店経営者ら二人が文化財保護法違反容疑で逮捕された
▼供述によると、経営者は金に困っており、鹿を殺して肉を売ろうと思ったのだという。だが、狙った相手は、人を信じて公園で平和に暮らしていた国の天然記念物、いや、それ以前に「神の使い」だ。しかも、哀れ、殺された鹿は身ごもっていたという
▼落語では、事情を酌んだ奉行が鹿を管理する役人を黙らせ「これは鹿ではない、犬だ」と話をまとめて豆腐屋はお咎(とが)めなしに。現実の話の方には、そんな“救い”はない
▼殺生なしに生きられぬ種だからこそ、人間は法を定めた。だが、それを破って動物を害する事件は実は少なくない。動物界の中での人間の評判は、また落ちた。
2010年4月15日
早朝のまだ暗い、彼(か)は誰(たれ)時。起き出した豆腐屋が、表に出しておいた商売物の雪花菜(きらず)、つまり、おからを、むしゃむしゃ食べている黒い影に気づく
▼犬だと思い、追い払おうと薪を投げつけると、それが当たって影はばったり。見れば、こときれていたのは犬ではなく鹿(しか)。そこは、鹿を神鹿(しんろく)として大事にしている奈良、誤って殺しても死罪になる土地だ。豆腐屋はお縄となり、奉行所へと引っ立てられる…
▼落語『鹿政談』の話。舞台も、鹿を殺(あや)めた者が縛につくのも同じだけれど、こちらはまったく同情できない。奈良公園の鹿が洋弓銃(ボーガン)で射殺(いころ)された事件で、三重県の飲食店経営者ら二人が文化財保護法違反容疑で逮捕された
▼供述によると、経営者は金に困っており、鹿を殺して肉を売ろうと思ったのだという。だが、狙った相手は、人を信じて公園で平和に暮らしていた国の天然記念物、いや、それ以前に「神の使い」だ。しかも、哀れ、殺された鹿は身ごもっていたという
▼落語では、事情を酌んだ奉行が鹿を管理する役人を黙らせ「これは鹿ではない、犬だ」と話をまとめて豆腐屋はお咎(とが)めなしに。現実の話の方には、そんな“救い”はない
▼殺生なしに生きられぬ種だからこそ、人間は法を定めた。だが、それを破って動物を害する事件は実は少なくない。動物界の中での人間の評判は、また落ちた。