中日春秋
2010年1月21日
 疑似餌を使った西洋伝来の釣法(ちょうほう)、フライフィッシングで渓流の魚を狙う時、重要視されるのがスラックである
▼たるみ、を意味する英語。竿(さお)先からフライ(毛針)までラインや糸が一直線に伸びているのは美しいが、流れにラインが持って行かれるため、すぐにフライが引っ張られてしまう。一定時間、本物の虫の流下のようにフライを自然に流すためには、どうしても糸のたるみが必要なのである
▼これ、世間一般のことにも通じる面がある気がする。例えば、新型インフルエンザワクチンの話。流行もここへきて下火になり、国産もだぶつき気味なうえ、政府が確保した外国産が成人九千九百万人分も輸入される
▼その約千百億円分は、そっくり不要になる恐れもあるらしい。いわば、確保量に生じた巨大なたるみだが、もしそれがなく、大流行して大量の不足が生じていたら、そっちの方がことだっただろう
▼伸びきれば、もう伸びしろはない。釣り糸のスラックが流れを受け止め、フライの自然な動きを守るように、たるみにはいざという時、衝撃や外力を吸収する力がある。だから、いかに平生や結果的には不効率で無駄に見えても、社会の中にあるたるみを無闇(むやみ)に“仕分け”するのは禁物だ
▼常、「たるんでいる」ように見えるあなたの部下だって、ここが勝負という時にはきっと…いや、それは保証できないか。