中日春秋
2009年9月3日
 もう時期は過ぎてしまったけれど、ちょっと印象の強い秋の季語の一つに、「生御魂(いきみたま)」というのがある
▼先祖の霊を供養するお盆に、それだけでなく、健在の老父母ら年長者をも敬い、長寿を祝って行う儀式のことだという。敬われる方、すなわち身内の翁(おきな)や媼(おうな)自体をそう呼ぶこともあるようだ
▼坪内稔典著『季語集』が紹介する中から一句。<生御魂昼湯のあとの酒五勺>板谷芳浄。もう一句。<握(にぎ)り飯二個持ち家出生御魂>右城暮石(うしろぼせき)。どちらも、家族の面(おもて)に浮かぶ微笑が見えてくるようだ。大事に思われ、幸せそうな「生御魂」である
▼先日、警視庁が万引で摘発した容疑者千人以上を対象に行った聞き取り調査の結果が発表された。このうち高齢者(六十五歳以上)のほぼ四人に一人が犯行の動機に挙げたのは「孤独」だったという
▼以前から高齢者の犯罪増加は指摘されている。ここ二十年ほどで、高齢者人口は約二倍なのに検挙者数は約五倍。最大の背景は、この年齢層にも襲いかかっている貧困だ。昨年の犯罪白書は、目立つ動機として「生活困窮」や「節約」を挙げたが、今回の調査は、さらにその奥にあるものを浮かび上がらせた
▼「生御魂」の幸福とはあまりに遠い、老境の凄惨(せいさん)を思う。家族とも地域とも切り離され、困窮の果てに犯罪へと走る高齢者が増え続ける国…。このままにしておいてはいけない。