「ねぇ、シズちゃんは自分の死を想像したことはある?」

そいつはカルボナーラをフォークにくるくると巻き付けながら、まるで“明日の予定は?”とでも聞くような軽い口調でそんなことを言った。

上手く巻き付かなくてスルスルと崩れるパスタにイライラしてると、目の前にそれが綺麗に絡まったフォークが差し出された。

オレはそれをくわえる。
コイツはそれを心底嬉しそうに笑う。そして薄い唇を再び開いた。

「それを想像できる人間なんて世界中にほんの一握りだと思うんだよ。だって今生きてるからさ、自分が死ぬなんて非現実的に捉えてしまうんだ。こんだけニュースで殺人事件や自殺が放送されているにも関わらず“自分は死なない気がする”なんて絶対ありえないことを皆思い込んでいる。それってすごいことだと思わない?」

こんなこと言っておきながら、無垢な子供のように笑うコイツも十分すごいと思う。あえて口には出さないが。

そいつはソファーから音も立てずに立ち上がると、空になった食器をオレの手から取って流しに置いた。
ガチャッといささか耳障りな音が、ドラマのいいシーンと被る。

「幽のセリフが聞こえなかったじゃねーか」
「録画してるから大丈夫だよ。ね、許して」

そう言って差し出されたプリンパフェを受け取る。
自然と顔が綻んだのが自分でも分かった。
我ながらこういうところは単純だと思う。…認めたくないが。

「ねぇねぇシズちゃん」
「んだよ…」
「オレは想像したことあるんだよ」
「へー」
「きっとオレはね、」





「っ…くっ、う、」

オレの腕の中にある臨也の抜け殻に滴が落ちる。端から見たら男二人が泣きながら抱き合ってるように見えて滑稽だろうか。

もともと真っ白い肌は血色を失い青白く沈んでいる。
可笑しいな、昔お前は言っていたじゃないか。
高体温のオレと低体温のお前を合わせると適温になるんだって。

「ウソ、つきやが、って」

付き合うときに二度とウソつかねぇって約束しただろ。
オレがウソや秘密が大嫌いだってこと知ってるだろ。

お前冷てぇじゃねぇか。
オレの体温全部奪いやがって、ふざけんなよ。

「帰ってこいよ…!帰ってきやがれ…」

今だけはウソを許してやるから、帰ってこい。
鼻につく笑い声で“シズちゃん騙されたの?オレが死ぬわけないでしょ?”って。
笑ってくれよ。
無表情なお前なんてお前らしくねぇよ。

『きっとオレはね、オレを恨む人間に撃たれるんだよ。長生きなんて出来ないと思う』
『でもシズちゃんより先に死ねたなら幸せだと思うんだ』
『だってね、後に死んだらずーっと寂しい思いしなきゃならないでしょ?でも先に死んだら天国から見守ることが出来るんだ』
『ずっとシズちゃんラブだからね!ウソじゃないよ!』

臨也の目尻から、また一つ涙が流れた。