絞り出すように唇から零れた言葉は、静雄の心のうちを明白にした。

愛されたい

要するに、これだ。
静雄が求め続けていたのは愛情だけ。

一見貪欲な願いだが、故に純粋だとも思う。
そして彼は「愛されてはいけない」と言いつつも、それを得ることをやはり諦めきれていないのだ。

「お前は愛されたくねぇの?」
「愛されちゃいけないんで」

テノールが揺れる。
握った拳が震える。
睫毛が影を落とす。

オレは静雄の隣に腰掛けて、そっけないように再び質問を続けた。

「お前は人を愛さねぇの?」
「オレからの愛なんて…」
「オレにさえくれねぇの?」
「それは…わからないっす…」

なんだよ、それ。
じゃあ質問を変えるべ。

「オレからの愛は受け取るの?」

(うわ、言っちまった)

我ながら臭いなと軽く後悔していると、パチリと見開かれた瞳が微笑んだ。涙を浮かべながら。

「いいっすよね。トムさんに愛されるなんて、羨ましいっすよ」
「それがお前なんだけどなぁ」

お子様は鈍感だから困るべ、とまで言うとついに静雄は声を上げた。
やめて下さい、と。涙声で叫ばれたその言葉は六畳半いっぱいに反響した。

「静雄?」
「好きっす」

恋愛感情をもってトムさんを見ています。
気持ち悪いっすよね?
ドン引きっすよね?
一生言わないつもりだったんっすけどやっぱ我慢出来ませんでした。
こうしなきゃトムさんはオレを嫌わないでしょ?
トムさんは優しいから並大抵のことじゃオレから離れないでしょ?

「オレな「もう黙れ」
「オレの好きな平和島静雄をけなすな」

お前一人の意見ばっかりオレに押し付けてくんな。
オレに愛されたらトムさんが不幸になる?は?ふざけたこと言ってんなよ。
オレはずっとお前のことを一人の人間として見てきてんだ。そんでいいとこも悪いとこも見てきて、だんだん惹かれていって…

「オレは恋愛感情以外でお前を見れねぇんだよ」

オレの好きな平和島静雄をお前も好きになってやれ。

そこまで言うと、ぐちゃぐちゃに顔を歪めて泣く静雄を乱暴に抱きしめた。
好きだとか愛してるだとか聞き取りにくい涙声で言うのが愛しくて、首筋に唇を落とす。

(だっせー告白…)

けど、たしかに今日
このソファーでオレ達の世界は始まった。
な?と、ずぶ濡れの前髪を掻き上げてやると、ついに静雄は肩を揺らして泣き出した。
えぐえぐと子供みたいに泣くもんだから、あまりにも可愛くて愛しくて。
オレよりも大きな身体をギュッと抱きしめた。

(なんてことしてるんだろ、オレ等。)

雨の中男同士がこんなことしてさ。端から見たらすげえ滑稽な画になっちまってんだろうな。

でも、幸せだ。
征服欲が満たされた気分。

「うっし!帰るべー」
「うっ、ひっく…ぅ、」

完璧に冷え切った手を握って、雨に打たれながら家路を歩く。

帰ったら風呂入ろう。
冷蔵庫の中にお前の好きな生クリームたっぷりのプリンがあるから一緒に食べような。
どうせ仕事も休みだろうから今日は泊まっていけよ。
明日は家でゆっくりしような。

鼻をすすりながらコクコクと頷く静雄に笑いかけると、垂れ下がった前髪の奥に笑顔が見えた。



「すみませんでした!!」
「気にすんなって!」
「でもオレ…トムさんにまた迷惑かけたから、」
「迷惑だなんて思ってねぇよ!」

オレがシャワールームから出ると、ソファーに座っていた静雄は叱られている子供のように頭を下げた。

(別に気にしてねぇんだけどなぁ)

普段から公共物ぶっ壊しまくって一緒に減給させられてるんだから、あんなのどうってことはない。
むしろ大歓迎だぞと言いたいくらいだ。

「け、けど…!「トムさんは嬉しかったぞ~?」
「え?」
「お前っていつも本音言わねぇんだからさ、」

心配してたんだよ。

辛そうなときだって何も言わねぇだろ?こっちが心配してやってんのに作り笑いばっかりでよ。

中学からの仲なのに全く心開かねぇんだから、トムさんは寂しかったぞ。
あーオレって全然信頼されてねぇのか、って。

「でも、やーっとオレのこと見てくれたな」

静雄は顔を上げると泣き出しそうな瞳でオレを見つめ、ゆっくりと、覚束ない唇を開いた。

「そんなこと思ってたんっすか…?オレは昔からトムさんのこと大好きっすよ」

中学生のときにオレに初めて優しくしてくれたのもトムさんだったし、心配してくれたり、笑いかけてくれて…
あの頃はこんなオレに本気で接してくれる人なんていなかったから、すっげぇ嬉しかったっす。

今だって、物壊したときに一緒に弁償してくれたり…
今日みたいに仕事失敗しても対応してくれて、やっぱトムさんってすげぇ人なんだって思ってます。

「でも、だからこそ出来ないんっすよ」

オレって、オレが思ってる以上に弱いんです。
たまに感じる孤独感とか…
こういう感情を自分の中で処理仕切れなくて、だから墜ちるときはとことん墜ちるタイプなんっす。

でもそれを表に出してもウザくないっすか?
同情を誘ってるような気がして自分にムカつくし、そうやって周りの空気悪くすんのも気持ち悪いし…。

要するにイヤなんっすよ、自分がすげーイヤっす。
こうやって人に迷惑しかかけれない自分も、でも優しくしてほしいって思ってる自分も、そのくせ人を信じきれない自分も。

「オレみたいな化け物が図々しいんですよ」

愛されたいだなんて。
ー臨也編ー

「シ~ズちゃん」
「コロスころす殺すコロス…」
「やだなぁシズちゃん。物騒なこと言わないでよ」
「そのクソ気持ちわりぃ呼び方やめやがれ」
「えー。シズちゃんはシズちゃんじゃん」
「そうか…。じゃあ、今日をてめぇの命日にしてやるよ!」
「ちょ、待って待って待って!仕方ないなぁ。…で?何て呼べばいいの?」
「あ゛ー…静雄でいい」
「ふーん。分かったよ、静雄」
「……………おう」
「静雄、顔赤いんじゃない?熱でもあるの?」
「は、いや、違うから近付くんじゃねぇ!!」
(脈あり、ってやつかな?)
(くっそ!なんでこんなに照れてんだよオレ…!)



ートム編ー

「今日もおつかれ」
「トムさんもおつかれ様っす」
「おう。あ、今日は家こいな」
「え?なんか約束してましたっけ?」
「ちげぇよ。お前今日は派手に刺されてただろ?…つーかまだ刺さったまんまかよ」
「あ、気持ち悪いっすよね、これ…。でも抜いたら血が出るんで…」
「いや、んなこと思ってねーから気にすんな!まぁ、あれだ。ほら、包帯巻いてやるからうちに来いってこと!」
「あ、ありがとうございます…」
「ははは、素直でよろしい!お前こういうとこ可愛いからイジられるんだよなー。シズちゃーんって…あ、やべ。静雄、怒っちまった…か?」
「あ、だ、大丈夫っすよ!何でもないんで気にしないでください!」
「本当か?ならいいんだが…」
(あっぶねぇ!禁止ワードには気を使わなきゃいけねぇな)
(い、今シズちゃんって言われたよな?シズちゃん…トムさんにシズちゃんって…!!)