「この場所で旗振信号をして、もう随分経ちます」

テレヴィジョンが私に見せた表情は取り留めのない信号の赤。
そして、無数に形成されたクレーターから発せられる音波の青。
そのどちらも、今の私にとっては、必要な代物ですらないことが日常。

「大災害、大喝采。大暴動、大暴落。大爆破、大衝撃、上体を低くして下さい」

隣のあの子の手を握ることを考え、あの子の表情を伺うも一興。
眼前のスクリーンは月へと追突するコックピットにパイロットはかぐや姫。
爺さん婆さん、おんなこども、みな一驚しつつ大喝采を待ち構える。

悲劇のヒーロー、ヒロインになれる大喝采。
喜劇のヒーロー、ヒロインになれる大喝采。

鍵を回せど出られぬこの家に旗振が一人。
「お出口はこちらになります」

押せど引けど出られぬ扉だと騒ぐ男が一人。
「バンバンバン」

グラス片手にカウヴォーイの真似をしてみてチェイサーを飲み干す。
そろそろ出掛けようかな。

おんなが言う。
「どちらまで?」

おとこが言う。
「蜂蜜の匂いのする湖までさ」

今夜は流れ星が沢山みられるよ。
こどもたちは望遠鏡を持ち寄って、筆記具片手に大忙しだ。

予言者は今夜は月が見られる最期の日だと騒いで牢獄へ。
預言も預言も狂言も虚言の一部にすぎぬのだとコメンテーター牢獄へ。

牢獄は沢山の人で溢れ返っていた。
子どもは望遠鏡で挙って牢獄を眺めるのに勤しんだ。

「一等星って目で見えるんだっけ?」
「あそこに北極星が見えるよ!」
「あっ、流れ星」

「ばか!願い事しそこねたじゃねぇかよ!」
「ばかじゃないよ!僕だってしそこねたよ!」
「ばかっていった奴がばかなんだよ!」

カウヴォーイ蜂蜜のする湖を探しに荒野を走る。
おんな私を縄で捕まえて頂戴と荒野を転げる。

旗振信号場面転換に勤しむ。
おとこ隣のあの子の手を握りぶん殴られ転げる。

かぐや姫月に衝突しそこねて流星群はお流れ。
旗振信号場面を換えすぎて、換えすぎて、満月を映し出し逃避。

月夜の兎突然のカメラワークについた餅を詰まらせ暗転。

切れたフィルムの後から旗振信号はお帰り下さいとだけ頭を垂れた。
テレヴィジョンに映りし情景は、ただただ太陽が私を包み込む光だけで、
この暗い部屋に朝を与えるには十分すぎるほどの光であった。

嗚呼、今日からまた仕事。