ダンテの『神曲』は野上素一訳のを持っていたし、いくつかの歌は原文でも読んでいたが、『いいなづけ』の訳がすばらしかったので、東大の平川祐弘先生の訳を読んでみることにした。詩的ではないが、とても読み易い。
人生の道半ば、35歳にして暗い森に迷い込んだダンテは、絶望した時、ウェルギリウスに出会い、地獄と煉獄を見てまわる。地獄では、キリスト教以前の歴史上人物に出会う。ホメロスのような偉大な詩人もいれば、アリストテレスのような哲学者もいる。彼らは洗礼を受けていないからだ。
第五歌では、肉欲の罪を犯した者の魂が吹きすさんでいる。フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの悲恋が歌われている。
第二十六歌では、オデュッセウスが現われる。権謀術策を弄した罪を犯したからだ。
悪臭のこみ上げる地獄には、虚偽瞞着を犯した者、他人と自らに暴力を加えた者・・・皆相応の罰を受けて苦しんでいる。肉体はまだ現世にありながら、既に地獄の責苦にあえいでいる魂もいる。放縦に耽り、嘘をつき、自らの体を害したユチョン。私はなんだかユチョンの魂がもうそこにいて苦しんでいるような気がした。