【第4回】


ロビーのテレビでピーピングライフが流れている。脱力感のあるやりとりが心地よいBGMのようだ。ソファーに腰かけて、こないだアマゾンで買った「ドイモイの誕生」を読みすすめる。


ここは自動車学校。就職とともに新生活がはじまり、同時に免許を取るため休日に隣街に通うハードな日々を過ごしていた。


教習を終え、車校の最寄り駅までシャトルバスで向かう。構内のSガストで竜田揚げ定食を食べ、西口のバス乗り場へ。市内のショッピングモールにいってみよう。


バスのなかで開いたのは認知言語学の本だった。この出版社、面接を受けにいったけど結局は入社しなかったんだよね。ああ、まだ数ヶ月か。ずいぶん前のように感じる。


そういえば、もう学生でなくなったのだし、専攻に拘りすぎずに広く読書をした方が良いんじゃないか。文系なのに哲学に不案内だから、有斐閣アルマの入門本でも買ってみようかな。


ドタバタ劇の末に職を得て流れついた新たな生活は、知らなかった街に住み、毛ほどの興味もなかった仕事をして何となく生きていく、どこに向かうのやら分からない日々の始まりだった。


とにかく一人で過ごす時間が長かった。


それは漠然とした不安があった一方で、多分それまでにないくらい自由な時間だった。あのバスのなかで、なんとなくそれを理解して、すこしだけ楽しみになったのだった。


【つづく】