【第3回】
「はい、こんにちはー。どうされましたか?」
「たぶんギックリ腰だと思うんですけど。重い物を持ち上げたらグキッとやっちゃったんですよねー」
「ほう、それはお仕事で?」
「ええ、そうなんですよ、力仕事をしてまして」
「あら、そうですか。意外だね、あなた賢そうなのに」
「職場以外の場所で人と話をしたのは、まあまあ久しぶりじゃないかい?」
「ここに来てからというもの、今までになく一人で過ごす時間が増えているからね」
「仕事は忙しくても、この街での君はけっこうのびのび生活しているように見えるけど」
「時間は学生の時の方があったはずだけど、不思議なことに、今の方が物事をじっくり考える余裕があるように感じてるんだ」
こんな状態なので翌日も休まざるを得ない。この街に来て2年ほど。初めてこんなに空き時間ができた。せっかくだから、ゆっくりしよう。
「ずっとここには居ないだろうけど、決して悪くない毎日だよ。一人ではあっても、孤独だとは感じていないんだ」
一人と孤独はぜんぜん違うものだ。そのバランスが変わったように感じられ、周囲に誰かがいたほうが健やかに生きられるな、なんて思うようになるのは、もう少し先の話だ。
いてっ…車の乗りこむのも容易ではない。ベルクでトンカツ買って帰ろうかな。
【続く】