「はあ 今日も21時00分になっちゃったね」
当時、同僚とそんな話をして、飲み会帰りのサラリーマンとすれ違いながら、疲弊しながら帰路に着く毎日を送っていた。
私の勤めていた会社は、就業時間が8時30分から17時15分だった。
エクセル作業が1日のうち5時間以上あり、日中は外回り、電話対応、来客対応があったため、帰宅するのは毎日21時00分以降だった。
10年以上前に部署が出来た当初から、この仕事のサイクルは変わっていなかった。
そしてあるとき私は疑問に思った。
「接客は時短出来ないけど、事務作業はもっと効率化出来ないか?」
というのも、当時やっていた作業は、例えば以下のようなものだったからだ
・100個以上のファイルを1個ずつ開いて、特定のシートを印刷して、閉じる しかも
・シートに顧客情報を入力し、別のファイルに同じ情報を手作業で転記する
この作業をやるだけで3時間、ミスがないかのダブルチェックに1時間、ミスの手直しに1時間で、合計5時間である。
同じような作業の繰り返しをしていて、「天下のMicrosoftが作ったソフトなら、こんなアホな繰り返し作業を無くす方法を用意しているはずだ」
と考えた私は、本屋に行き、EXCELのコーナーに向かった。
「…ん?マクロ?う〜ん、よくわからないけど調べてみるか…とりあえず自動化が出来るらしいけど、関数と何が違うんだ?」
このときはまだ、定時帰りになる一歩を踏み出していたことにまだ気付いていなかった。
その日から、毎日帰宅後にマクロについて勉強する日を送った。
まずは「100個くらいあるファイルを、1個ずつ開いて、特定のシートを印刷する」という作業の自動化をしようと思った。
プログラミングの素養が無かった私は、for文、dir関数に挫折しまくった。
何度も何度も「これ、勉強するより手作業の方が早くね?」という元も子もない考えをしていた。
しかし、毎日21時00分に帰る現状を打破したい一心で勉強を続けた。
半年間くらい勉強をして、あらゆるエラーを解決し、ようやくマクロが完成した。
そしてドキドキしながらマクロを実行するボタンを押した。
「100個のファイルの中のシートを印刷せよ」と指令を受けたプリンターが凄まじい勢いで印刷していく。
重なっていく紙の束の順番を崩さないように、とりあえず今印刷されている紙を全て掴んで手に取って、印刷された内容を確認してみる。
「ああ…これでやっと早く帰れそうだ」
と確信した。
全て印刷するのにかかった時間は約1分。
マクロを起動するのはワンクリックだから、実作業時間は、1秒もかかっていない。
今度は同僚の目の前で、もう一度マクロを実行してみせた。
同僚の歓喜を聞いた他部署の人達もプリンターの前に来て大騒ぎする事態となった。